オクちゃんの読書日誌 第8回

「躊躇いと戸惑いの中で」 

(ためらいととまどいのなかで)

https://www.berrys-cafe.jp/pc/book/n1129300/

ベリーズカフェ 2015-07-01 136,545文字

 

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書 籍 コーナー

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CD  コーナー

 

 私は男っ気無し。 独身。 年齢 31才。 職業 OL。 

駅前とか郊外にCDや書籍の販売店をチェーン展開する会社の

本社で総務統括というポジションなので残業が多い。

名前は碓氷(うすい)沙穂(さほ)

 

 今は、テレビのゴールデンタイムが過ぎた時分。

オフィスの天井照明は私のデスクのまわりだけを照らしている。

パソコンを使って新店オープンの準備資料をチェック中。

 

 そこへ同僚でエリア・マネージャーの河野眞人が缶コーヒーを

持って現われる。 彼はすでに10店舗以上の新店のオープンを手がけ、

ベテランの余裕を身にまとっている。 そのあと食事をしながら仕事の話。

 

 ゴールデンウィーク前に本社近くの駅前型店舗に、店長に頼まれた

備品を届けに行った。 そこのCD販売部のレジで新人研修中の

乾(いぬい)君に「慣れた?」と声を掛けると、

凄くびっくりした顔を見せられ、こちらも驚いた。

 

  1才年長の木下店長を探してバックヤードに行くと、

また部下に休まれたのか徹夜明けの様子。 

そこへ河野が現れ、新人の乾君の描いた手書きのPOPの出来が

素晴らしいと褒めた。 

然し、会社の規則で手書きのPOPは禁止なので、私がウィンドウに

貼ってあったのを剥がした。

乾君が河野と私を見て「仲が良いんですね」と云ったが、

言い方が気になった。

 

 河野の話では、POP部の梶原がIT関連の企業にヘッドハント

されそうだから、乾君を後釜に推薦したいとのこと。 POP部へ

梶原の様子を見に行くと、転職は事実のようだった。

 

 そのあと、自販機の微糖か、給湯室でちゃんとコーヒーを

淹れるか悩んでいるところへ河野がやってきて飲みに誘われた。

本社から離れた場所にある居酒屋へ行くことになった。

河野が木下店長の店に用事があって寄ると、乾君が帰るところ。

私が河野と一緒なのを見ていぶかしむ。

 

 河野はPOPに移動させる話でもするのか、乾君に一緒に飲みに

行こうと誘う。 乾君が遠慮をするのを強引に連れて行く。

乾君が、「お二人は仲が良いんですね」と云い、

付き合いされているんですか」と続けると、

河野が大笑いして否定。 

私も河野をそういう風に見たことは一度も無かったが、

河野のリアクションには腹が立った。

乾君は「そうですか、お付き合いして

いないんですね」と念を押したような言い方をする。

 

 河野は私と乾君を肴に盛り上がる。

河野は乾君に「会社は彼女で回っているようなもんだ」と

私を持ち上げる。

河野が乾君に店長志望だと思うが、本社のPOP部門に来ないかと誘う。

私の調べでは、乾君は美大卒業でコンピューターにも詳しい。

POP行きは断るかと思ったら、考えてみる、と前向きな返事。

 

 翌日、二日酔いのところへ、社長が回ってきて、状況を聞かれる。

帰りに木下店長の店に乾君の様子を見に行くと、若いだけに爽やかな顔。

私は乾君に「彼氏はいないんですか」と訊かれ、

質問の意図がわからないが、みんな知っていることだし、

「いない」と返事。

 

 数日後、河野が乾君から意外な早さで、POP部への移動OKする

という返事が来て驚いている。 私が何かしたんじゃないかと疑う。

 

 梶原に新店オープンで忙しいだろうが、乾君の指導を頼むと云いに

POPに顔を出した。 その後、ランチに行こうとすると、乾君に

一緒して良いかと聞かれる。

食事をしながら、乾君にどうして本社のPOPに来ることをあっさり

受けたのかと聞くと、「碓氷さんがいるからです

との返事。 

乾君に「笑顔が素敵ですね」と云われて冷や汗をかく。

 

 店舗回りのあと、帰社後POP室を覗くと、全員新店に行っていて、

乾君一人で作業をしていた。 手伝おうとプリンターのインク補充を

していたら、手が汚れた。 そのままの手で書類に触りかけると、

乾君に手首を掴まれてびっくり。 インクの付いた手で書類に触り

そうになって、引き止められたのだった。 

乾君は私の手首を離さず、「手首が華奢ですね」と云う。 

乾君はまだ仕事というから、代わりに弁当を買ってきてあげると

云って外へ出た。

 

 乾君の弁当を買って帰り、渡して帰ろうとすると、

河野が帰社してバックヤードで作業していた。 

乾君に弁当を買ってきたことが気に入らない様子。 

乾君に弁当を渡したら直ぐ帰れとか、夜道に気を付けろとか

云いながらイラついている。

 

 河野には弁当がないから、せめて栄養ドリンクでもと、持って

行ったら、足元の道具箱に躓き、河野の上に覆いかぶさるように

倒れ込む。 河野が抱き留めてくれたが、ストッキングが破れ、

膝を擦りむいてしまう。

 

 電車で帰るのはみっともないからタクシーを呼ぼうかと

考えていたら、河野が車で来ているから、家まで送ると云う。

外で待っている所へ乾君が通りかかり、膝の怪我を見つける。

乾君は「タクシーを呼んで送ります」と云うが断る。

そこへ河野の車が来ると、乾君が河野とはそんな仲なのかと訊く。

 

 河野は乾が自分と私の従来の仲を割きたがっていると云う。

車から降り際、河野は私の手を掴まえ、私に結婚してやる

と言い出す。そして、私の身体を引き寄せ、キスをしてきた。

 

  翌朝、入社して初めて会社に向かう足が重い。 河野に会うのが

恐かった。 後ろから乾君に肩を叩かれ、前夜、河野と何処かへ

行ったのではないかと疑いの目で見られる。

 

 仕事は山積み、時間が惜しいので、サンドを買いにコンビニに向かう。

途中、梶原に弁当を頼まれたと云う乾君に追いつき一緒に行く。

帰社して廊下で河野に会い、一歩身を引くと、悲しそうな顔をする。

河野は昨夜のことは焦った結果で申し訳ない、今後も今まで

どうりで頼むと詫びる。 

 

 最後にキスしたのは2年前のこと。 相手は付き合っていた

彼とだが、お互いに仕事が忙しくて別れたのだった。

河野とはそんなつもりがまったく無かったからショックだった。

 

 乾君が備品を貰いに来たので倉庫に連れて行く。

受け取り確認フォームに書いた名前でフルネームが乾聡太と判る。

出た所で河野と鉢合わせ、河野と乾君がにらみ合う。 乾君が去った後で

河野に大人げないと文句を言うと、乾も分かっている筈という。

 

 終電間際まで残業し、帰りがけにPOPフロアを覗くと、乾君が

一人で残業中。 声を掛けて帰ろうとすると、一緒に帰るという。

入社した時の気持や、POPに移動を決めた時の心境を聞く。

遅いからとマンションの前まで送ってくれる。

 

 河野と何かあったのかと聞くと、想うことが同じ

だということにお互いが気付いただけだという返事。

 

 郊外型の大型新店舗のオープンに行き、みんなで喜び合う。

 

 河野は「結婚してやろうか」と云ったのは本気だと云う。

河野の車で会社に戻る。 梶原が辞めた後、新人の乾君でPOPが

うまくいくだろうか心配だと云うと、河野は自分がPOPを監督する

から、私は店舗とか、他を見ればよいと云う。

POP室を覗くと、乾君がプリンターの故障を修理していた。

手がインクで汚れていたので、給湯室に連れて行く。

 

 乾君は私が河野と親しいことが気に入らない。私は河野とは仕事の

関係だけだと説明。 然し、乾君は河野はそうでは無いと反論。

乾君は「河野さんには渡したくない」と云って、

私をシンクに押し付け、抱き付いてキスしてくる。 

河野のときとは違い、私もその気になった。

 

 河野から飲みに誘われ、いつもの居酒屋の個室で落ち合う。

河野から「結婚の話は本気」だと云われるが、私は乗り気になれない。

乾君について聞かれる。 乾君が私に気があることは気付いているが、

7才も年下だから、若さゆえの気の迷いだろうと返す。 

河野は「一緒に指輪を買いに行っても良いのだぞ」と云ったが、

私は今のままが良いと返事。

 

 早めに仕事が終わり、乾君が一緒に帰りたいと云う。

居酒屋のカウンターに空席を見つける。 上司で年上の私を

相手にするより、若い子と付き合った方が良いよと云うと、

年は関係ないと云う。 結婚を前提で付き合ってくれと云う。

 

 マンションの前までと云っていたが、エントランスの中まで

ついて来た。 私を壁に押し付け、キスをしたうえで、

僕の気持は変わりません碓氷さんが

好きです。ほかの誰にも触れさせたくない。

僕と付き合って下さい

と云われたら断れなくなった。

 

 翌朝、乾君に公然と夜の食事に誘われる。 経理のベテラン

女子社員の田山さんがニヤニヤしていた。

 

 河野から結婚の申し込みに乗らないことを愚痴られる。 

夜のデートの相手は乾君かと聞かれたから小さく頷く。

 

 食事ではワインのボトルを殆ど私一人で空けてしまった。

勘定の支払いで少し揉めたが、結局乾君が全部持った。

乾君がタクシーで送ると云い、マンションに着いたが、

乾君も降りてしまい、料金も払ってくれる。

コーヒーに誘い、部屋に上げる。 三度目のキス。

押し倒されて一線を越える。 

乾君が「碓氷さんの中、あったかい」と云う。

 

 翌朝、河野に会うと「眉間の皺がすげーぞ」と云われ、

経理の田山さんには「うれしいことあった?」と訊かれる。

昼から新店を河野の車で見に行くことに。

給湯室でコーヒーを淹れていると、乾君が現れ、河野と

一緒だと聞くと暗い顔をする。 こんな所でと逆らうのに

無理やりキスされる。

 

 新店には午後からと聞いていたが、社長が来るとのことで、

昼前に出ることになった。 乾君とランチの約束があったが、

連絡出来ずに車でスタートすると、乾君が玄関で見ていた。

社長はPOPが良くなったと、河野を褒める。

河野とファミレスで遅い昼食。

乾と付き合っているのかと聞かれ、頷く。

河野は「結婚は諦めたのか?アイツとの結婚を考えているのか?」

と聞かれ、「それは無理だと思っていると」返事。

河野は「年下の男に言い寄られて舞い上がっているだけだ。

俺は待っているよ。」と云う。

 

 乾君から夜の食事に誘われる。 彼は私の降りる駅のそばに

オープンしたばかりのレストランを見つけていて、そこへ連れて

行ってくれる。 私が店員と普通に笑顔でやりとりしていると、

乾君はヤキモチを焼く。「あの店員と仲良くしないで。沙穂は

魅力的だからあの店員に言い寄られると困る。」と云う。

また、「河野さんとはどうなっているの?余り、一緒に居て

欲しくない。」とも言う。

 

 お互いのことをもっと知り合おうということで、

名前の沙穂・聡太と呼び合うことにした。

 

 乾君からベテランのバイトとの関係で愚痴を聞く。

乾君は私が河野といると何かと邪魔をする。

 

河野から社長の話について飲みながら話したいと云って来る。

聡太から「すぐ来て」と云われて行くと、「河野と夜会うのを

やめてくれ」と云われる。 駐車場まで連れ出され、

人に見られると困ると云うのに抱き付かれる。

 

 河野の話はもう一人のエリアマネージャーの小田が担当する

内藤店長の郊外店の業績に不安があり、社長から担当を河野に

変えるとの命令が出たので、私に手伝ってくれと云う。

 

 河野は乾君が仕事中でも私を呼び出すとか、若さからくる

公私混同が度を越す危険があるから心配だと云う。

 ダイヤの指輪を差しだし、持っていてくれと云う。

 

 聡太から「河野さんの愚痴を聴きに行ってから、沙穂

おかしいね。」と云われる。 そこで、「会社で私情を

持ち込むのはやめにしない?」とやんわり、言葉を選んで

言い聞かせる。 すると、聡太は「河野さんにプロポーズでも

された?」と云い、「今夜は帰る。」とその場から立ち去る。

 

 それからは、聡太は私を避けるようになった。

 

 或る日の帰りがけ、聡太から「お願いがあるんだ」と云われる。

 

 「少し、距離を置かない 

沙穂を好きな気持ちは変わらない。

けど、河野さんとの事を理解する余裕が今の僕には無いし。

理解もしたくないっていうのが正直な気持ち。 

沙穂のそばにいると、どうしても河野さんの影がチラついて、

どうしようもなく苦しくなるんだ。

だから、ごめん・・・、しばらく離れたい。」

と告白される。

 

 それから、聡太は私を避けるようになり、一か月ほど過ぎた。

給湯室でコーヒーを淹れていると、河野が来て仕事の話。

そのあと「やっぱり焦りすぎたのかもしれないな」と漏らす。

 

 ある週末、おしゃれをして外出。 コーヒーを飲んでいると

河野が現れる。「乾と待ち合わせか?」と云い、友達と会うからと

立ち去る。

 

 河野から「渡した指輪を返してくれ」と云われる。

先日会った友達に相談したら、そんなことは良くないと云われた

そうだ。 決めるのは碓氷なのに、いろいろ引っ掻き回して

悪かったと謝られる。

 

 帰りに聡太の姿を探して急ぐ。 私の駅で降りたところで

追いつく。 聡太は「沙穂が追い付いてくれて嬉しい」と云う。

そして「シンプルに考えることにしたんだ

年下とか河野さんのことは忘れて、

自分の気持に正直になろう。 

沙穂が安心していられるような男になる。 

沙穂を幸せにしたいから。」

と云われて、私は「ありがとう」と云い、

回りも気にしないで聡太と抱き合うのだった。