オクちゃんの読書日誌 第9回
「ハートイン・エクスプレスメモリー」
(東北新幹線が運んだ熱い想い)
作:さかき原枝都は
13,074文字
http://novel.comico.jp/challenge/23156/
ノベルコミコ 2016-12-25
https://kakuyomu.jp/works/1177354054882255413
カクヨム 2017-12-04
雪の聖夜に秋田で生まれた若い二人の想い
それを運んだ 東京ー盛岡 東北新幹線
「ハートイン・エクスプレスメモリー」
携帯電話もスマホも無かった。
秋田ー東京 遠く離れて、声を聞けるのは固定電話と公衆電話。
あとは、紙に書いたラブレター。
それでも、私たちの心は一つになっていた。
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私は東京、彼は遠く離れた東北ー秋田。
離れたくなかった。いいえ、離れる事さえ考えつかなかった。
でも、現実は違った。
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東京に行って最初のクリスマスの手紙。
前略
村田人志(ひとし)様
今年のクリスマス・・・一緒に過ごすことは出来ません。
でも、20日はお休みです。
だから、19日の最終の新幹線で盛岡までなら行けます。
人志、来てくれるかな?
秋田まで行きたいけど、私には時間がありません。
いられても、次の日の最終の新幹線の時間まで。
出来たら、本当に、出来たらでいいです。
もし、時間が取れるなら・・・逢いたい。
ほんのいっときの間でも。
早々
並木絵里奈(えりな)
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私は女子なのに工業高校に進んだ。
私以外は全員男子。 私は「紅一点」。
人志とはクラスが同じだった。
家は貧しく、バイトで学費は勿論、生活費の一部まで
稼がねばならなかった。 学校が終わると、喫茶店で夜まで
働き、家に帰れば内職の手伝いで、寝る時間も無かった。
そんな私を学校では、身体も売っているのではとさげすまれていた。
自分でもお金が欲しくて、そうしても良いと思っていた。
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雪降るクリスマスの夜、喫茶店の仕事が遅くなり、足早に家に
向かっていた。 後ろから男性に声をかけられた。 手を掴まれ、
「今夜はクリスマス。お互い一人だから、楽しくやらないか。
おこずかいもあげるよ。」と云われ、足が止まる。
駅前通りのホテルの近くに差し掛かったところで、人志に
止められた。 男から引き離され、頬を平手で引っぱたかれた。
「自分をもっと大切にしろ」と云われ、雪道で泣き崩れた。
人志に抱きあげられ、人志の暖かい胸にあたためられた。
そして、人志との付き合いが始まり、2年が過ぎた。
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人志は地元企業に就職。 私は東京の働き口へ行く。
卒業式のあと、人志に引っ張られて、雪の残る小さな公園に行く。
手紙を渡し合い、今度はバイトしていた喫茶店に連れて行かれた。
人志や友だちが卒業記念パーティーを用意してくれていた。
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東京に出発する日、両親と妹、弟が駅まで見送ってくれたが、
肝心の人志の姿は無かった。東北新幹線はまだ盛岡ー上野間。
2時間かけて、普通列車で盛岡に着く。
後ろから、暖かい手が頬に触れる。 振り向くと、人志の顔が。
「やまびこ166号上野行きは間もなく発車します。」
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初めてのクリスマスの前に人志に送った手紙の通り、12月20日、
私は最終の東北新幹線で上野から盛岡に向かった。
人志から返事は無かったけど、私は信じていた。
盛岡は秋田のような雪は無かったが、空気は冷たかった。
寒いホームのベンチに座って人志を待ったが現れない。
諦めてホームから下に移動しようと立ち上がった。
後ろから暖かい手で眼を覆われた。
「だーれだ?」
「ただいま、人志」
「おかえり、絵理奈」
「手紙出したのに返事くれないから、来てくれないかと思った」
「ごめんごめん、読んですぐどこかにいっちまった・・・」
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私たち二人は2本のレール。 どんなに離れていても、
レールのように、いつも心と心は繋がっている。
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今年は3回目のクリスマス。 今度は私が人志を待つ番。
人志が私のいる東京にやってくる。
彼の乗る東北新幹線がホームに滑り込んでくる。
ドアの向こうに私の大切な人。
クリスマスは私たちの記念日。
メリークリスマス!
完