「オクちゃんの読書日誌」 第13回

 

 さんの「温かな背中」 146,678文字

https://kakuyomu.jp/works/1177354054887264075

 

 田舎は山も海もあり、自然が美しいところだが、

本屋もコンビニもバスで30分はかかる。

今は都会に出て来て毎日が目まぐるしく過ぎている。

 

 つきあっている貴哉(たかや)のほうは都会生まれの

都会育ち。 田舎とか帰省とかには縁が無い。

 

 大学を卒業、ようやく受かった会社はブラック企業

体調を崩して会社を病欠、貴哉が見舞いに来た。

貴哉は「田舎者は帰る所があっていいよな」と冷やかすから、

「帰ってないけど」とむくれる。

 

 貴哉が栄養をつけようと高級スーパーへ買い物に誘う。

品物を選んでいるうちに具合が悪くなって失神。 

貴哉が「千夏(ちか)千夏(ちか)」と叫ぶ。 

貴哉が背中に負ぶってマンションまで連れ帰る。

体の具合が悪いのに貴哉の背中の温もりは感じる。

貴哉はスーパーに取って返し、買い物した食材を持って帰る。

牛肉のステーキを焼いてくれたが、一口しか食べられない。

トマトはほぼ丸ごと食べた。

 

 会社を辞めたら体調が戻った。 

母親のスマホに手製のコロッケの写真が出ていた。 

自分で作りたくなり、材料を買って来て作った。 

貴哉が帰りに寄っていろいろ言いながら食べた。

母からチルド宅配便で手作りの冷凍コロッケが届く。

 

 体調が戻ったので仕事を探すことにして、

取り敢えず渋谷に出て、山手線に乗る。

階段を上がるおばあちゃんが心配でついて行く。

おばあちゃんは降りた駅で姿が見えなくなった。

駅の近くに下町風の商店街があり、店のおじさんや

おばさんに誘われるままに、いろいろ総菜を買い込んで

帰宅。

 

 仕事を探しに出かけたのに、仕事を探さないで、

総菜を買ってきただけかと、貴哉に冷やかされる。

今時、仕事を探すなら、ネットや雑誌か、ハローワーク

だろ、千夏はやる気あるのか、とからかう。

でも、おばあちゃんを心配してそうなったのは

「優しい千夏らしいな」と笑う。 

 

 ハローワークへ行こうと駅へ向かい、電車に乗ると

例のおばあちゃんに声をかけられる。

おばあちゃんのお名前は「好子さん」。

孫が来るから沢山食べ物を買ったのに、キャンセル

してきたので、家に寄って一緒に食べてと誘われる。

量が多過ぎるので、仕事中の貴哉も呼ぶ。

おばあちゃんには息子が一人いるが、仕事が忙しく

来られないので、代わりに孫を寄こすのだとのこと。

 

 仕事探しは半年で辞めた新卒だからハローワーク

冷たくて、仲々仕事が見つからない。

取りあえず、ファミレスで土日のバイトを始めた。 

貴哉は土日が仕事では一緒に休日を過ごせないと不満。

 

 アルバイト初日は立ち続けで足が棒になる。

貴哉が好子さんを連れて様子を見に来た。

仕事を終えて駅の改札を出ると、貴哉が待っていて、

「かーのじょ。乗っていく?」と温かな背中を

向ける。

 

 貴哉が忙しくなって、千夏のマンションにも

バイト先のファミレスにも現れなくなる。 

貴哉は何故か実家の近くに部屋を借りているが, 

帰るとベッドに倒れ込む毎日らしい。

 

 本格的に職探しを始めようと、求職雑誌を買って、

カフェで読み、スマホで連絡したら、一軒直ぐに

面接の声がかかった。

 

 面接先の会社は輸入ワインの販売会社。

50才代の男性が「浅野です」と迎えてくれる。

女性社員が出産休暇に入り、欠員が出来たとのこと。

正社員に決まり、翌日から出社と決まる。

ワインの会社らしく、浅野さんの音頭でワインで乾杯。

 

 30代の男性が外から帰り、「勝手なことを」と腹立ちの表情。

水野千夏です。宜しくお願いします。」と頭を

下げると、男性は「採用したんだ。」と顔を歪める。

 

 浅野さんから頂いた、飲みかけのワインのボトルを

頂いて帰る。

 

 貴哉が久しぶりに来た。 

ハローワークから送ったメールのことで文句たらたら。

「本気で仕事探す気あんのか。」

「そんなんだったら、帰れば。」

又、又、「帰れば」の言葉に怒り爆発。

「帰って」と言ったら、貴哉は出て行った。

 

 出社すると「浅野さん」が会社のビルの前を掃いていた。

代ろうとしたら、「これは私の日課ですから」と断られる。

「中で佐藤さんという女性が待ってます」と入口を指さす。

佐藤さんは30代か。 ショールームのワインの棚を

掃除していた。 吉川さんという20代半ばの

女子社員の隣の席を与えられる。

吉川さんから、面接のとき、後から登場したのは

専務だと教えられる。

 

 海外との関係があるから、外国語の堪能な社員が数名いる。

水野さんが「あなたの席には国内からしか電話かからない。」

と教えてくれて、ほっとする。

吉川さんは「とにかく素直が一番」と教えてくれる。

 

 好子さんからスマホで食事にいらっしゃいと誘われる。

 好子さんは貴哉が千夏の好きなものを教えてくれたという。

就職が決まったので、ファミレスは辞めると報告。

実家を聞かれ、北海道だと教える。

困ったときに帰りたくなることもあったが、貴哉に

「帰れば」と言われると悔しくて、一度も帰らずに

頑張って来たと教える。 好子さんは貴哉も呼んだと

いうが忙しそうで現れない。残った料理をタッパーに

詰めて貰い、持って帰る。

 

 ファミレスに出勤、仕事が決まったので辞めたいと

申し出る。

 

 佐藤さんからワインのことをいろいろ教わる。

専務は前回はイタリア、今回はフランス出張と教えてくれる。

二階にワインの貯蔵庫があり、営業担当から、客先に試飲用に

持参するサンプルを取ってくるように頼まれ、佐藤さんに

案内して貰う。

 

 ファミレス最後の勤めを終えて出てきたら、

近くの酒店あたりからか、専務が現れる。

高級料亭に連れて行ってくれた。 

食べたことが無いようなご馳走が出る。

専務は佐藤さんや吉川さんが千夏を褒めていた、

面接のときは悪かったな、と詫びる。 

マンションまで歩いて送ってくれる。

 

 歓迎会の夜、道に迷っていたら、浅野さんと一緒になる。

吉川さんが「社長と一緒だったの」と聞くが、千夏は意味が

分からず、浅野さんが改まって、千夏に「社長の浅野です」

と自己紹介したから、店内が大爆笑の渦。

 

 専務が社長のことを「オヤジ」と呼んだので、専務が

社長の息子と分かる。

 

 専務がワイングラスを二つ持って来て、テイスティング

しろと言う。 テーブルの上の各種チーズに合うワインを

当てろと言われ、千夏はテストかと驚く。

 

 結果は「合格」と、専務が褒美だとが持って来て

くれた、チューリップグラスに注がれたワインは

飛び切り上等の美味しいワインだった。

 

 みんなに勧められて飲み過ぎ、外の風に吹かれて

いると、専務が出て来て、ワインの話をしてくれる。

 

 そこへ、突然、貴哉が現れ、千夏の肩を掴んで専務から

引き離しにかかる。 それを見て専務は事情を察し、

店に戻っていく。

 

 貴哉、「誰?」「こんな遅くに、何やってんだよ。」

と怒鳴る。

私、「大きな声出さないで」とたしなめる。

貴哉が怯む。 私、「ごめん」。 

貴哉が遠慮がちに私を抱きしめ、仲直り。

 

 夏休みに入る前日、貴哉は好子さんのところに

寄って、料理をたくさん頂いて来る。 

ビールのあとに、専務から貰ったワインだと言って

出すと貴哉は渋い表情。

でも、アルコールと食べ物のあとはベッドイン。

 

 営業に、倉庫に行って、二階の貯蔵庫用にワインを

取ってきて貰いたい。 専務と一緒に行って来てと言われる。

専務の車は高給外車。 ドアを開けて貰って右の助手席に。

倉庫の責任者の佐伯さんが出迎える。

クーラーボックスのワインが重くて台車を探す。

専務が軽々と運んでくれる。

帰りにワインの話からワイングラスの話になる。

専務は車を専門店に回し、誕生日プレゼントだと、

立派なグラスを買ってくれる。

 

 専務に貰ったワイングラスをテーブルの上に出して

眺める。 それに合うワインが欲しくなり、誕生日用に

専門店に買いに行く。 帰ると貴哉が入口で待っている。

専務から誕生日プレゼントに貰ったとグラスを見せると、

貴哉が石になる。

然し、上等のグラスとワインに興奮して乾杯する。

至福の時に思わずニタニタする。

 

 翌日の誕生日、貴哉が友達から借りて来た車で

高速を走って、ワイナリーに連れて行ってくれる。 

山に囲まれたブドウ園を歩き、千夏は田舎を思い出す。

千夏の田舎は山も近いが、海には歩いて行ける距離。

テーブルについた時、貴哉が綺麗なネックレスを誕生日

プレゼントにくれて、首にかけてくれる。

 

 吉川さんにランチに誘われてタイ料理に行く。

年の話題で、千夏23才、吉川さん29才と分かる。

吉川さんは結婚したいが相手がいないという。

貴哉とはどうかと聞かれるが、結婚はまだ考えてない。

 

 休憩室で専務と一緒になり、誕生日用のワインを会社で

買わなかったことを呆れられる。

 

 吉川さんに専務と仲が良い理由を聞く。

専務はイベント会社に勤めていたが、社長が還暦に近くなって

移って来たから、吉川さんの後輩であり、仕事も指導して貰って、

頭が上がらない。 年も32才と近いことから馴れ馴れしく出来る。

 

 退社しようとしたら、土砂降りの雨。 専務が車で送ってくれる。

田舎の話になったら、専務は東京育ちとのこと。 

千夏に、たまには帰ったほうが良いという。

 

 週末、千夏の部屋に来た貴哉が千夏の手帳を見て、読めないと

笑う。 専務が教えてくれて読めた話をすると、貴哉の顔から

笑みが消える。

 

 そのあと、映画を観に出掛け、貴哉が選んだ創作料理の店は

ワインの種類が豊富。 貴哉が勉強になるだろうと笑う。

貴哉とは大学二年の時に告白されてつきあい始めた。

パスタとかステーキとか料理を教えてくれた。 

思い出し笑いをしていたら、貴哉の顔もほころぶ。

 

 休憩室で吉川さんが正月休みの話をする。 

帰省するならもう飛行機の予約を入れないと、という。

専務が立ち寄り、まだ予約を入れてないのかと呆れる。

週末やってきた貴哉がスマホで予約しようとしたが

キャンセル待ち。 千夏はいろいろ考えて諦める。

 

 クリスマス前、帰りがけに専務に食事に誘われる。

フレンチレストランでいろいろなワインを教わる。

専務が食事に付き合って貰ったお礼とクリスマス・

プレゼントだと北海道までの往復航空券をくれる。

 

 そのあと、タクシーでマンションまで送ってくれたが、

タクシーを待たせて専務が降りて来る。

専務の車に置き忘れたハンカチを返してくれる。

手を握り、千夏を胸に抱き寄せるが、何もせずに離す。

 

 次の朝、コーヒーを飲みながら、思い出していると

貴哉が迎えに来て、クリスマス・プレゼントを買いに

出掛ける。 千夏は専務の行動が頭から離れず上の空。

 

 母親からのスマホに帰省のことを報告する。

 

 お互いのクリスマス・プレゼントを買いに出かける。

カラオケやボーリングのあと、貴哉が予約したレストランに

クリスマス・ディナーに行く。 そこは、前夜、専務が

連れて行ってくれた店だった。

千夏の気まずい気持ちが貴哉にも伝播したようだ。

 

 千夏のマンションに帰って来たが、貴哉はエレベーターに

乗ろうとしない。 千夏が上の空なのが何故なのか

分からないと言って出て行くが、戻ってきて千夏に

キスしようとする。 然し、千夏が避けると、今度は

振りむくことも無く入口を出ていく。

 

 初めて一人ぼっちのクリスマス。 

少し帰省の準備をして、ランチに出かける。 

足が会社に向かい、仕事をしている専務をランチに誘う。 

貴哉と喧嘩してしまった。 原因は専務であり、専務は

千夏をどう思っているのか訊くが、専務は答えない。

 

 吉川さんは合コンが上手く行って、相手と初詣の約束が

出来、自分へのご褒美にと買ったネックレスをしている。

千夏が外したことの無い貴哉から貰ったネックレスを

していないのを見つけ、喧嘩をしたことがばれる。

 

 忘年会で専務と顔が合うが、会話が無い。

帰りがけ、専務がタクシーで送ると云うのを振り切って、

駅まで走って電車に乗る。 マンションに着くと、貴哉が

待っていて、部屋に上げる。

 

 貴哉は関係を修復しようとするが、千夏は混乱していて、

貴哉に、もう終わりにしようと、云ってしまう。

 

 予定通り、実家に帰ると、専務から「無事着いたか」と

電話。 貴哉からも同じ電話。

 

 両親、祖父母が大喜び。 大きなこたつ、大きな浴槽で

暖まり、ほっとする。 大晦日には兄も到着。 

 社内販売で3割引きで買ってきた白・赤のワインを出す。

スマホで家族写真を撮影。

 

 兄が空港まで車で送り、お土産をいろいろ買ってくれる。

 

 羽田に着くと専務が待っている。 電車では疲れるからと

車で迎えに来てくれたのだ。 

ついでにと、高級なしゃぶしゃぶ店に寄る。

マンションに着くと貴哉が待っていた。

 

 貴哉は千夏に辛くあたったことを詫びる。

千夏は貴哉が辛くあたるから、専務の優しさに心が

揺れたが、専務は単に好意からいろいろしてくれた

だけだと分からなかったと悟る。

 

 最後は貴哉が千夏を背中に負ぶって仲直り。

 

              (おわり)

 

     【オクちゃんの感想】

 

 貴哉が何かというと千夏に「田舎に帰れば」と揶揄ったり、

冷やかしたりしたのが、何故千夏にとって苦痛なのかが、

貴哉にも分からず、 オクちゃんにも分からなかった。

 

 正月休みで実家に帰ると当然のことだが、家族全員で

「東京が辛かったらいつでも帰って来い」と大合唱。

だから、辛いと故郷にUターンする人間がいるということを

都会人である貴哉もオクちゃんも知らなかったのだ。

 

 千夏ちゃんは貴哉の背中に乗るくらいだから、身長は

高くなく、体重も軽いのだろう。 

 

 新卒で就職に苦労したというから、英検とか情報処理

などの資格は無かったようだ。 大卒でも文系だと

就職は難しい。 

 

 最初の就職先がブラック企業というのは、

入社しないと分からず、半年で辞めても仕方が無い。 

然し、体調を崩すまで我慢したのはおかしい。

千夏ちゃんはそれほど丈夫では無かったのか。

我慢強い性格なのか。 負けず嫌いなのか。

 

 貴哉はほかの女性に関心を持つことはなく、

千夏一筋で、千夏も同じ気持ちだと油断していたね。

 

 専務は間違いなく千夏に好意を持っていたが、

貴哉を意識していたし、専務と言う立場もあるから、

千夏に対する気持ちを抑えているように見える。

千夏はそう感じたから、専務に直接「どう思っている

のですか」と聞いてしまったが、そこは千夏が幼い

ということだろう。

 

 今回は専務が大人の選択で引き下がったから、

貴哉は千夏を取り戻せたが、最後に理解し合えた

のが間に合って良かった。

 

 この作品は田舎から都会に出てきた一人の女の子の

言動をとことん描写した力作だ。

 

 読者は自分も千夏ちゃんという23才の乙女の心の中に

棲みついて、千夏ちゃんと一緒に心が揺れるだろう。

                     (了)