「オクちゃんの読書日誌」 第13回

 

 さんの「温かな背中」 146,678文字

https://kakuyomu.jp/works/1177354054887264075

 

 田舎は山も海もあり、自然が美しいところだが、

本屋もコンビニもバスで30分はかかる。

今は都会に出て来て毎日が目まぐるしく過ぎている。

 

 つきあっている貴哉(たかや)のほうは都会生まれの

都会育ち。 田舎とか帰省とかには縁が無い。

 

 大学を卒業、ようやく受かった会社はブラック企業

体調を崩して会社を病欠、貴哉が見舞いに来た。

貴哉は「田舎者は帰る所があっていいよな」と冷やかすから、

「帰ってないけど」とむくれる。

 

 貴哉が栄養をつけようと高級スーパーへ買い物に誘う。

品物を選んでいるうちに具合が悪くなって失神。 

貴哉が「千夏(ちか)千夏(ちか)」と叫ぶ。 

貴哉が背中に負ぶってマンションまで連れ帰る。

体の具合が悪いのに貴哉の背中の温もりは感じる。

貴哉はスーパーに取って返し、買い物した食材を持って帰る。

牛肉のステーキを焼いてくれたが、一口しか食べられない。

トマトはほぼ丸ごと食べた。

 

 会社を辞めたら体調が戻った。 

母親のスマホに手製のコロッケの写真が出ていた。 

自分で作りたくなり、材料を買って来て作った。 

貴哉が帰りに寄っていろいろ言いながら食べた。

母からチルド宅配便で手作りの冷凍コロッケが届く。

 

 体調が戻ったので仕事を探すことにして、

取り敢えず渋谷に出て、山手線に乗る。

階段を上がるおばあちゃんが心配でついて行く。

おばあちゃんは降りた駅で姿が見えなくなった。

駅の近くに下町風の商店街があり、店のおじさんや

おばさんに誘われるままに、いろいろ総菜を買い込んで

帰宅。

 

 仕事を探しに出かけたのに、仕事を探さないで、

総菜を買ってきただけかと、貴哉に冷やかされる。

今時、仕事を探すなら、ネットや雑誌か、ハローワーク

だろ、千夏はやる気あるのか、とからかう。

でも、おばあちゃんを心配してそうなったのは

「優しい千夏らしいな」と笑う。 

 

 ハローワークへ行こうと駅へ向かい、電車に乗ると

例のおばあちゃんに声をかけられる。

おばあちゃんのお名前は「好子さん」。

孫が来るから沢山食べ物を買ったのに、キャンセル

してきたので、家に寄って一緒に食べてと誘われる。

量が多過ぎるので、仕事中の貴哉も呼ぶ。

おばあちゃんには息子が一人いるが、仕事が忙しく

来られないので、代わりに孫を寄こすのだとのこと。

 

 仕事探しは半年で辞めた新卒だからハローワーク

冷たくて、仲々仕事が見つからない。

取りあえず、ファミレスで土日のバイトを始めた。 

貴哉は土日が仕事では一緒に休日を過ごせないと不満。

 

 アルバイト初日は立ち続けで足が棒になる。

貴哉が好子さんを連れて様子を見に来た。

仕事を終えて駅の改札を出ると、貴哉が待っていて、

「かーのじょ。乗っていく?」と温かな背中を

向ける。

 

 貴哉が忙しくなって、千夏のマンションにも

バイト先のファミレスにも現れなくなる。 

貴哉は何故か実家の近くに部屋を借りているが, 

帰るとベッドに倒れ込む毎日らしい。

 

 本格的に職探しを始めようと、求職雑誌を買って、

カフェで読み、スマホで連絡したら、一軒直ぐに

面接の声がかかった。

 

 面接先の会社は輸入ワインの販売会社。

50才代の男性が「浅野です」と迎えてくれる。

女性社員が出産休暇に入り、欠員が出来たとのこと。

正社員に決まり、翌日から出社と決まる。

ワインの会社らしく、浅野さんの音頭でワインで乾杯。

 

 30代の男性が外から帰り、「勝手なことを」と腹立ちの表情。

水野千夏です。宜しくお願いします。」と頭を

下げると、男性は「採用したんだ。」と顔を歪める。

 

 浅野さんから頂いた、飲みかけのワインのボトルを

頂いて帰る。

 

 貴哉が久しぶりに来た。 

ハローワークから送ったメールのことで文句たらたら。

「本気で仕事探す気あんのか。」

「そんなんだったら、帰れば。」

又、又、「帰れば」の言葉に怒り爆発。

「帰って」と言ったら、貴哉は出て行った。

 

 出社すると「浅野さん」が会社のビルの前を掃いていた。

代ろうとしたら、「これは私の日課ですから」と断られる。

「中で佐藤さんという女性が待ってます」と入口を指さす。

佐藤さんは30代か。 ショールームのワインの棚を

掃除していた。 吉川さんという20代半ばの

女子社員の隣の席を与えられる。

吉川さんから、面接のとき、後から登場したのは

専務だと教えられる。

 

 海外との関係があるから、外国語の堪能な社員が数名いる。

水野さんが「あなたの席には国内からしか電話かからない。」

と教えてくれて、ほっとする。

吉川さんは「とにかく素直が一番」と教えてくれる。

 

 好子さんからスマホで食事にいらっしゃいと誘われる。

 好子さんは貴哉が千夏の好きなものを教えてくれたという。

就職が決まったので、ファミレスは辞めると報告。

実家を聞かれ、北海道だと教える。

困ったときに帰りたくなることもあったが、貴哉に

「帰れば」と言われると悔しくて、一度も帰らずに

頑張って来たと教える。 好子さんは貴哉も呼んだと

いうが忙しそうで現れない。残った料理をタッパーに

詰めて貰い、持って帰る。

 

 ファミレスに出勤、仕事が決まったので辞めたいと

申し出る。

 

 佐藤さんからワインのことをいろいろ教わる。

専務は前回はイタリア、今回はフランス出張と教えてくれる。

二階にワインの貯蔵庫があり、営業担当から、客先に試飲用に

持参するサンプルを取ってくるように頼まれ、佐藤さんに

案内して貰う。

 

 ファミレス最後の勤めを終えて出てきたら、

近くの酒店あたりからか、専務が現れる。

高級料亭に連れて行ってくれた。 

食べたことが無いようなご馳走が出る。

専務は佐藤さんや吉川さんが千夏を褒めていた、

面接のときは悪かったな、と詫びる。 

マンションまで歩いて送ってくれる。

 

 歓迎会の夜、道に迷っていたら、浅野さんと一緒になる。

吉川さんが「社長と一緒だったの」と聞くが、千夏は意味が

分からず、浅野さんが改まって、千夏に「社長の浅野です」

と自己紹介したから、店内が大爆笑の渦。

 

 専務が社長のことを「オヤジ」と呼んだので、専務が

社長の息子と分かる。

 

 専務がワイングラスを二つ持って来て、テイスティング

しろと言う。 テーブルの上の各種チーズに合うワインを

当てろと言われ、千夏はテストかと驚く。

 

 結果は「合格」と、専務が褒美だとが持って来て

くれた、チューリップグラスに注がれたワインは

飛び切り上等の美味しいワインだった。

 

 みんなに勧められて飲み過ぎ、外の風に吹かれて

いると、専務が出て来て、ワインの話をしてくれる。

 

 そこへ、突然、貴哉が現れ、千夏の肩を掴んで専務から

引き離しにかかる。 それを見て専務は事情を察し、

店に戻っていく。

 

 貴哉、「誰?」「こんな遅くに、何やってんだよ。」

と怒鳴る。

私、「大きな声出さないで」とたしなめる。

貴哉が怯む。 私、「ごめん」。 

貴哉が遠慮がちに私を抱きしめ、仲直り。

 

 夏休みに入る前日、貴哉は好子さんのところに

寄って、料理をたくさん頂いて来る。 

ビールのあとに、専務から貰ったワインだと言って

出すと貴哉は渋い表情。

でも、アルコールと食べ物のあとはベッドイン。

 

 営業に、倉庫に行って、二階の貯蔵庫用にワインを

取ってきて貰いたい。 専務と一緒に行って来てと言われる。

専務の車は高給外車。 ドアを開けて貰って右の助手席に。

倉庫の責任者の佐伯さんが出迎える。

クーラーボックスのワインが重くて台車を探す。

専務が軽々と運んでくれる。

帰りにワインの話からワイングラスの話になる。

専務は車を専門店に回し、誕生日プレゼントだと、

立派なグラスを買ってくれる。

 

 専務に貰ったワイングラスをテーブルの上に出して

眺める。 それに合うワインが欲しくなり、誕生日用に

専門店に買いに行く。 帰ると貴哉が入口で待っている。

専務から誕生日プレゼントに貰ったとグラスを見せると、

貴哉が石になる。

然し、上等のグラスとワインに興奮して乾杯する。

至福の時に思わずニタニタする。

 

 翌日の誕生日、貴哉が友達から借りて来た車で

高速を走って、ワイナリーに連れて行ってくれる。 

山に囲まれたブドウ園を歩き、千夏は田舎を思い出す。

千夏の田舎は山も近いが、海には歩いて行ける距離。

テーブルについた時、貴哉が綺麗なネックレスを誕生日

プレゼントにくれて、首にかけてくれる。

 

 吉川さんにランチに誘われてタイ料理に行く。

年の話題で、千夏23才、吉川さん29才と分かる。

吉川さんは結婚したいが相手がいないという。

貴哉とはどうかと聞かれるが、結婚はまだ考えてない。

 

 休憩室で専務と一緒になり、誕生日用のワインを会社で

買わなかったことを呆れられる。

 

 吉川さんに専務と仲が良い理由を聞く。

専務はイベント会社に勤めていたが、社長が還暦に近くなって

移って来たから、吉川さんの後輩であり、仕事も指導して貰って、

頭が上がらない。 年も32才と近いことから馴れ馴れしく出来る。

 

 退社しようとしたら、土砂降りの雨。 専務が車で送ってくれる。

田舎の話になったら、専務は東京育ちとのこと。 

千夏に、たまには帰ったほうが良いという。

 

 週末、千夏の部屋に来た貴哉が千夏の手帳を見て、読めないと

笑う。 専務が教えてくれて読めた話をすると、貴哉の顔から

笑みが消える。

 

 そのあと、映画を観に出掛け、貴哉が選んだ創作料理の店は

ワインの種類が豊富。 貴哉が勉強になるだろうと笑う。

貴哉とは大学二年の時に告白されてつきあい始めた。

パスタとかステーキとか料理を教えてくれた。 

思い出し笑いをしていたら、貴哉の顔もほころぶ。

 

 休憩室で吉川さんが正月休みの話をする。 

帰省するならもう飛行機の予約を入れないと、という。

専務が立ち寄り、まだ予約を入れてないのかと呆れる。

週末やってきた貴哉がスマホで予約しようとしたが

キャンセル待ち。 千夏はいろいろ考えて諦める。

 

 クリスマス前、帰りがけに専務に食事に誘われる。

フレンチレストランでいろいろなワインを教わる。

専務が食事に付き合って貰ったお礼とクリスマス・

プレゼントだと北海道までの往復航空券をくれる。

 

 そのあと、タクシーでマンションまで送ってくれたが、

タクシーを待たせて専務が降りて来る。

専務の車に置き忘れたハンカチを返してくれる。

手を握り、千夏を胸に抱き寄せるが、何もせずに離す。

 

 次の朝、コーヒーを飲みながら、思い出していると

貴哉が迎えに来て、クリスマス・プレゼントを買いに

出掛ける。 千夏は専務の行動が頭から離れず上の空。

 

 母親からのスマホに帰省のことを報告する。

 

 お互いのクリスマス・プレゼントを買いに出かける。

カラオケやボーリングのあと、貴哉が予約したレストランに

クリスマス・ディナーに行く。 そこは、前夜、専務が

連れて行ってくれた店だった。

千夏の気まずい気持ちが貴哉にも伝播したようだ。

 

 千夏のマンションに帰って来たが、貴哉はエレベーターに

乗ろうとしない。 千夏が上の空なのが何故なのか

分からないと言って出て行くが、戻ってきて千夏に

キスしようとする。 然し、千夏が避けると、今度は

振りむくことも無く入口を出ていく。

 

 初めて一人ぼっちのクリスマス。 

少し帰省の準備をして、ランチに出かける。 

足が会社に向かい、仕事をしている専務をランチに誘う。 

貴哉と喧嘩してしまった。 原因は専務であり、専務は

千夏をどう思っているのか訊くが、専務は答えない。

 

 吉川さんは合コンが上手く行って、相手と初詣の約束が

出来、自分へのご褒美にと買ったネックレスをしている。

千夏が外したことの無い貴哉から貰ったネックレスを

していないのを見つけ、喧嘩をしたことがばれる。

 

 忘年会で専務と顔が合うが、会話が無い。

帰りがけ、専務がタクシーで送ると云うのを振り切って、

駅まで走って電車に乗る。 マンションに着くと、貴哉が

待っていて、部屋に上げる。

 

 貴哉は関係を修復しようとするが、千夏は混乱していて、

貴哉に、もう終わりにしようと、云ってしまう。

 

 予定通り、実家に帰ると、専務から「無事着いたか」と

電話。 貴哉からも同じ電話。

 

 両親、祖父母が大喜び。 大きなこたつ、大きな浴槽で

暖まり、ほっとする。 大晦日には兄も到着。 

 社内販売で3割引きで買ってきた白・赤のワインを出す。

スマホで家族写真を撮影。

 

 兄が空港まで車で送り、お土産をいろいろ買ってくれる。

 

 羽田に着くと専務が待っている。 電車では疲れるからと

車で迎えに来てくれたのだ。 

ついでにと、高級なしゃぶしゃぶ店に寄る。

マンションに着くと貴哉が待っていた。

 

 貴哉は千夏に辛くあたったことを詫びる。

千夏は貴哉が辛くあたるから、専務の優しさに心が

揺れたが、専務は単に好意からいろいろしてくれた

だけだと分からなかったと悟る。

 

 最後は貴哉が千夏を背中に負ぶって仲直り。

 

              (おわり)

 

     【オクちゃんの感想】

 

 貴哉が何かというと千夏に「田舎に帰れば」と揶揄ったり、

冷やかしたりしたのが、何故千夏にとって苦痛なのかが、

貴哉にも分からず、 オクちゃんにも分からなかった。

 

 正月休みで実家に帰ると当然のことだが、家族全員で

「東京が辛かったらいつでも帰って来い」と大合唱。

だから、辛いと故郷にUターンする人間がいるということを

都会人である貴哉もオクちゃんも知らなかったのだ。

 

 千夏ちゃんは貴哉の背中に乗るくらいだから、身長は

高くなく、体重も軽いのだろう。 

 

 新卒で就職に苦労したというから、英検とか情報処理

などの資格は無かったようだ。 大卒でも文系だと

就職は難しい。 

 

 最初の就職先がブラック企業というのは、

入社しないと分からず、半年で辞めても仕方が無い。 

然し、体調を崩すまで我慢したのはおかしい。

千夏ちゃんはそれほど丈夫では無かったのか。

我慢強い性格なのか。 負けず嫌いなのか。

 

 貴哉はほかの女性に関心を持つことはなく、

千夏一筋で、千夏も同じ気持ちだと油断していたね。

 

 専務は間違いなく千夏に好意を持っていたが、

貴哉を意識していたし、専務と言う立場もあるから、

千夏に対する気持ちを抑えているように見える。

千夏はそう感じたから、専務に直接「どう思っている

のですか」と聞いてしまったが、そこは千夏が幼い

ということだろう。

 

 今回は専務が大人の選択で引き下がったから、

貴哉は千夏を取り戻せたが、最後に理解し合えた

のが間に合って良かった。

 

 この作品は田舎から都会に出てきた一人の女の子の

言動をとことん描写した力作だ。

 

 読者は自分も千夏ちゃんという23才の乙女の心の中に

棲みついて、千夏ちゃんと一緒に心が揺れるだろう。

                     (了)

    

オクちゃんの読書日誌 第12回

さかき原  枝都は さんの

 

  「君と、あなたと出会えたのは、

      あの夜空に輝く花火があったから」

 

                          165,527文字 

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884049110

 

         【2019年夏 大曲の花火 フィナーレ 特別スターマインより】

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        オクちゃんのまえがき

 

 実は、この作品は第3回で取り上げたが、特別な理由で

再登場させた。

 

 この物語の主人公は2011年3月11日(金)午後3時ごろ

発生した東日本大震災で家と共にたった一人の

身内である母親と、幼馴染で恋仲だった男の子を失い、

秋田県の親戚に引取られたが、PTSDでボロボロになって

しまった女の子。

然し、彼女は周囲の人達の助けで生きる希望を取り戻し、

精神科医を目指すというお話。

 

 今回、再度取り上げた理由は、つい先日8月31日に開催された 

2019年夏の秋田「大曲の花火」で史上初「花火ミュージカル」

が提供された。 

 物語は震災で被害に遭った少女が元気を取り戻す話であり、

奇しくも本作品のテーマと同じだった。

 

 前回のさかき原 枝都はさんの作品 紹介は原作に沿ってあらすじを

まとめたが、原作の書き方がユニークであらすじなのに読み辛かった。

今回は原作からは離れるが、読み易くしたつもり。

 

   【大会提供「花火ミュージカル 令和祝祭」より】

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 小説「君と、あなたと出会えたのは、

あの夜空に輝く花火があったから」

 

 

 蒔野巳美(まきのともみ)追想

   (東日本大震災まで)

 

 東京の中学を卒業、高校に入学した1年後、両親が離婚、巳美は母親と

宮城に越した。 学校もそこの高校に転校した。

 父親が謝罪の手紙と現金3万円を送ってきた。 巳美はその金で

東京、石神井の父親に会いに行ったが、新しい家族と幸せそうな父を

見て、会わずに帰った。

 宮城での唯一の親友は冨塚和美(とみずかかずみ)。 

彼女も母子家庭だった。 

 酒屋の息子の大島和也(おおしまかずや)。 

同級生。 人見知り。 よく学校を休む。 人付き合いが悪い。

自転車で配達途中、巳美が居た防波堤によく顔を見せた。

和也は巳美が自殺するのではと心配だったと言い、二人は

キスをする仲になった。

 巳美は和也と和美が仲良く歩いているのを見つけ、

二人の仲を疑い、絶好を宣言。

 それは和也が巳美の誕生日(9月1日)プレゼントを

選ぶのを和美に手伝って貰っただけと判る。

 和美が改めて二人の関係を巳美に説明。

二人は小学校からずっと一緒だった。 中学の時、和美の

両親が離婚、学校でイジメにあった。

 和也が全校生徒・教師の前でイジメを止めてと訴えた。

そして二人の仲は急接近、和美が妊娠・中絶。

和也が他校に転校させられた。

 和美が巳美の家に泊まり、二人はキスをした。

 三人で夏祭りに行き、花火を観たり、屋台に寄った。

和也が巳美に渡した誕生日プレゼントは花火と同じ、赤、青、

緑、金色、4色のサファイアを散りばめたペンダント。

 祭りの後、巳美は和也とむすばれた。

 翌年、巳美が高校2年の春、2011年3月11日東日本大震災の日、

巳美は母親とつまらないケンカをして家を飛び出した。

そこへ津波が襲ってきて、一緒に居た和也が波にさらわれた。

和也は「巳美は生きろ」と叫びながら波間に消えた。

母親の遺体が見つかり、巳美は秋田県大仙市の親戚に引き取られた。

 

 

  杉村将哉(すぎむらまさや)の回想

     研修医になるまで

 

 将哉が東京の高校2年のとき、バスケ部のマネージャーだった

辻岡歩美香(つじおかふみか)からラブレターを

貰ったが返事を書かなかった。 何故なら彼女はキャプテンと

つきあっていると思っていたから。 然し、当のキャプテンから

彼女は将哉が入部してきたときから、将哉に想いを寄せ、

二人の仲は終わっていると聞き、歩美香との交際を始めた。

 

 将哉は大学の医学部を受験するので2年の終りに退部。

歩美香は看護師の道に進んだ。 その後、将哉が大学5年のとき、

歩美香の両親が秋田に引っ越し、父親が脳梗塞で死亡。

母親が一人になったので、歩美香は秋田の母親のもとへ引っ越し、

二人の遠恋が始まった。

 

 

     辻村歩美香(つじむらふみか)

      (熱く儚い生涯)

 

 歩美香は東京の大学にいる恋人、将哉に8月第4土曜日の

「大曲の花火」を見に来てと頼んだ。 将哉は秋田空港

飛び、歩美香は車で空港に出迎えた。 

 

 花火会場に車で行き、歩美香の同僚、奥村秋穂

(おくむらあきほ)の家の庭に駐車させて貰った。

花火会場が混雑していて、奥村家の近くの土手から花火見物。

翌日、歩美香は新幹線で東京に戻る将哉を駅まで送った。

 

 将哉は次の春、医師国家試験に合格、研修医として病院勤務を

始め、次の花火に来る余裕は無くなった。 だから、歩美香の

母親が子宮筋腫で入院した時も、歩美香は心配をかけないように

将哉には連絡をしなかったが、母親は将哉への恨みを募らせた

ようだった。

 

 ある時、男の子が信号無視で歩美香の車と接触する事故があった。

それがきっかけで、ついに将哉との遠恋の疲れが出て、神経を患い、

心療内科医師、真壁信二(まかべしんじ) の治療を

受け始めた。 しばらくして、彼は歩美香に元気をつけようと

夕食に誘った。 歩美香は商店街に立ち寄り、将哉にプレゼントする

コートを買った。 そこから帰宅途中、車が近寄ってきて、コートの

入った袋を奪おうとし、歩美香は取られまいと必死に抵抗した。 

然し、男は歩美香を車内に連れ込んで歩美香を犯し、

歩美香とコートを路上に放り出して逃げ去った。

 

 その後、間壁医師から告白を受け、歩美香は職場に復帰した。

歩美香は東京の将哉にコートを届け、自分の気持を確かめようと

決心した。 予告無しに、自分の以前の職場でもある病院に、

将哉を訪ねた。 将哉の指導医の笹山医師が顔見知りの

歩美香を見つけ、将哉を早退させてくれた。

 

 歩美香は将哉にプレゼントのコートを渡した。 暴漢に

汚されたコートはお店の好意で新品に取り換えて貰っていた。

二人は馴染みの店でオムレツを食べ、将哉が通っていた塾を

見たりした。歩美香は将哉の気持を確認し、間壁医師への

気持は消えた。将哉は歩美香の態度に違和感を感じたようだが、

歩美香は東京に一泊もしないで、秋田新幹線で秋田に帰った。

 

 間壁医師からは婚約指輪を渡されそうになったが、

歩美香はきっぱり断った。

 

 歩美香は横断歩道を渡ろうとしていた少女を助けようと

して、命を落とした。

 

 

      杉 村 将 哉 (研修医)

 

 外科研修の指導医は笹山医師。

笹山医師は歩美香が同院の看護師時代を知っていた。

将哉は歩美香にそのことを伝えたが、その後は忙しくなり音信が減る。

笹山医師の指導は厳しいが、「医者である前に一人の人間であれ」

という言葉は将哉の人生の苦しみを乗り越えさせる助けとなる。

 

 田島尚という12才のサッカー少年が練習中に倒れ、搬送されて来た。

心室の心筋不全、特発性拡張型心筋症と診断され、心臓移植しか

助かる方法は無かった。 彼は2年後失命、将哉は無力感を味わう。

 

 秋田の歩美香の同僚、奥村秋穂から歩美香の死を伝える電話を受ける。

真壁医師から歩美香に受け取りを拒否された指輪を受け取るよう

頼まれる。 

 

 将哉は笹山医師から「外科には向いてない」と云われた。

笹山医師の彼氏は外科医だったが、屋上から飛び降り自殺した。

 

 2011年3月11日(金)「東日本大震災」が発生。

笹山医師と二人だけで宮城へ派遣医師として赴く。

笹山医師は北部医科大の高度救命センターに移る。

 

 将哉は秋田大学の精神科を志願、研修医として迎えられる。

 

 

         蒔 野 巳 美

     大曲花火で杉村将哉と会う)

 

 秋田県大仙市「大曲花火」の夜、叔父たちから見物に行けと

言われるが、巳美はそんな気にはなれず、町の中を彷徨い、

川の土手に辿り着く。

 

 そこに居た若い男性に声を掛けられて隣に座る。

彼は泣きじゃくる巳美の手をやさしく握ってくれていた。

 

 雪が積もる冬になり、巳美のPTSDの症状が重くなり、大学病院の

精神科に入院する。 そこで、花火の時、手を握ってくれた人、

精神科助手、杉村将哉と再会。

 

 巳美は未成年の18才。 3月には退院するが、親戚は引き取りを

拒否している。

 

 将哉は上司の準教授から巳美を亡き辻岡歩美香の母親に預ける

ことを勧められる。 母親は病院に行って、巳美を傍から見て

決めると言う。

 

 巳美は病室を出て歩きながら気を失い、歩美香の母親に

助けられる。

 

 巳美は歩美香によく似ていた。

 

 歩美香の母親が巳美を引き取る。

 

 巳美は2週間ごとに通院、将哉と会う。

 

 5月の連休を過ぎ、将哉が同行して、宮城の海の防波堤へ行く。

巳美は宮城の海に自分の弱い心を捨てたかった。

そして、将哉に「好き」と告白する。 

同時に自分も医者になると海に誓う。

巳美は高卒認定試験を受け、大学の医学部への入学を果たす。

 

 養子縁組で辻岡朋美となる。

 

 冨塚和美は生きていて、看護師になっていた。

 

 将哉はアメリカに3年間の研修に行く。

 

 巳美は歩美香が貰う筈だった指輪を左の薬指にはめ、

その指輪に関わった人達の想いを感じていた。

 

 秋田県大仙市大曲の「全国花火競技大会」がきた。

巳美が座る場所は特別な場所。 

巳美と巳美の大切な人の秘密の場所。

 

 花火が打ち上がる。 近づく足音。

「その席、まだ空いているかな?」

 

 左手の薬指の指輪を右手の薬指に移し、新しい指輪を

左手の薬指にはめてくれる。

 

 「結婚しよう!」

 

 君と、あなたと出会えたのは、

    あの夜空に輝く花火があったから。

 

                 (おわり)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オクちゃんの読書日誌 第11回

「哀しみのエヴァンス

  ~いつかアンダーカレントを~

               作: 柊

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https://novel.daysneo.com/works/7d58d92100ebf60d098fa7533329d740.html

NOVEL DAYS  98,642文字

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ビル・エヴァンス

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アンダーカレント

  オクちゃんの適当な冒頭解説 

 タイトルの中の「エヴァンス」とはジャズピアニストの「ビル・エヴァンス

「アンダーカレント」はアルバムの中の1枚、「アンダーカレント」のこと。

ビル・エヴァンスジム・ホールの歴史的な競演のCD.

直訳すれば「水面下とか海面下にあって、見えない水流

ジャケットでは水面下に漂う女性の姿で水流の存在を表現しているようだ。

 

   「哀しみのエヴァンス

      ~いつかアンダーカレントを~」

 

 主人公は澤木涼音(さわきすずね)という少女。

 

 物心ついた時から、自宅に立派なグランドピアノがあった。

両親はプロのミュージシャンで、コンサートなどに出演のため、

度々家を留守にし、近くの地下でジャズ・バーを経営する叔父さんが

彼女の面倒をみてくれていた。

 

 両親は彼女をプロのクラシック・ピアニストに育てようと

厳しく育てた。 お蔭で、コンクールには片っ端から優勝し、

メディアから天才少女として祭り上げられていた。

 

 本人の意思とは関係なく、ピアノが最優先で、学業は二の次、

スポーツや遊びとは無縁の生活だった。

 

 あるとき、町で幸福そうな親子の姿を見ているうちに、

クラシック・ピアノを弾く気力が無くなってしまった。

 

 両親も諦め、叔父さんの世話で普通のオフィスに勤める。

帰りに叔父さんのジャズバーに寄って、年下のバーテン、俊ちゃんが

出してくれる氷を浮かべた褐色のドリンクと手作りの料理が楽しみ。

 

 かつて、ジャズ・ギターを弾く彼と一緒に演奏したあと、

彼と並んで座って飲んだカウンターの席が彼女の指定席で、

常連さんはそこには近寄らない。

 

 或る晩、その席に涼音とおない年くらいだから、25~6才の

男の客が座っていた。 俊ちゃんによれば、最近よく来る客という。

 

 ある時、会社で同僚と諍いがあり、上司から叱られる。

叔父さんのバーに顔を出すと、その客がうるさく声を掛けて来る。

嫌になって店を飛び出すと、追いかけて来て腕を掴まれる。

彼の名前は成瀬と言い、その後も涼音に付きまとう。

 

 叔父の店がパーティーを引き受けたが、俊ちゃんが発熱で、

涼音が代わりに食材の買い出しに出かける。

そこで、年上の女性にからまれる。 彼女はかつて叔父のバーで

涼音にジャズを教えてくれた世界的なジャズ・ギタリスト

川端征爾の事務所の人間かマネージャーだったらしい。 

彼女は彼と涼音が路上でバイクに突っ込まれ、彼が身を挺して

涼音を守り、彼の方は怪我をして引退に追い込まれたことを

怨んでいた。

 

 涼音は彼女に「いっそ、私を殺して」と叫びながら、拳を地面に

叩きつける。 そこへ成瀬が飛んできて、涼音を助け出す。

 

 成瀬が自分の車の中で、涼音の傷ついた手を手当てし、買い物を

バーまで運び、涼音を家まで送る。 

 涼音が包丁で指を切り落とそうとするが、成瀬が止めて、

刃物を全部片づける。成瀬は心配だからと言って、涼音の手を

握って一緒に寝る。

 

 成瀬が「夢の国」のような遊園地に連れて行ってくれる。

乗り物、食べ物、お土産と成瀬が気遣い、涼音は元気になる。

叔父のバーに寄り、ピアノに向かうが、手が震えて弾けない。

 

 成瀬は、今度は、涼音をあるライブに連れて行く。

そこで、かつて、クラシックの仲間だった蓮美を発見する。

彼女もクラシックを諦めて、ジャズに転向、キーボードを担当していた。

 

 成瀬が涼音を自分の出身小学校に連れて行く。

講堂のピアノで涼音は「猫ふんじゃった」を弾き、ピアノを弾ける

ようになったと思える。

 

 成瀬を叔父のバーに連れて行き、ビルエヴァンスWaltz for Debby

弾く。

 

 ある時、バーの入口に、以前絡んできた征爾の関係者と思われる

女性が涼音を待ち伏せしていた。 征爾のその後を聞くと、前に

会った路上の近くに居るという。

 

 成瀬が征爾のギター教室のことを調べて来る。

二人で探しに行って見つける。 

涼音を怨んでいた女性は征爾のマネージャーだった。

 

 征爾は涼音に「ご免」と詫びる。 征爾も表舞台で演奏するのが

嫌になり、涼音にジャズを教えたのも「逃げ」だったという。

バイクが飛んで来た時は、事故に巻き込まれたら、怪我で引退出来ると、

自分から身を投げ出したのだという。 だから、バイクが良く見えて、

大怪我をしないようにしたので、怪我は大したことは無かった。

又も、涼音に心配かけて済まなかったと詫びる。

涼音は裏切られたような気がする。

 

 全てが明るみに出たら、涼音は気が軽くなり、叔父のバーに行って、

ジャズを弾きたいと成瀬に言う。 観客は叔父と俊ちゃんと成瀬だけ

だが、涼音には三人の拍手が演奏会場の大観衆の拍手より大きく轟いて

聞こえた。

 

 涼音はいつかビルエヴァンス「アンダーカレント」を弾けるかも

しれない、いや、絶対弾いてやると思った。

 

                         終わり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オクちゃんの読書日誌 第10回

「春に想われ 秋を愛した夏」

                     作: 柊

https://www.berrys-cafe.jp/pc/book/n1001816/

ベリーズカフェ 2014-04-04 116,395文字

 

        『作品の概要』

 

 私、蒼井香夏子は大学卒業と同時にアパレル関係の会社に就職、3年経過。

仕事が速く、課長に能力を買われている。

 

 同じ部署で席が隣りの新井君は私に優しい。 私の体調を気遣ったり、

時々、ランチに誘ってくれる。

 

 部署は違うが、女子社員のミサと親しい。 彼女は彼氏とのラブラブな

関係を私に聞かせたがる。 最近、彼氏と同棲を始めた。

 

 大学時代からの親友、野上塔子とは降りる駅が同じ。住まいも5分と近い。

靴にこだわりがあって、物凄い数のストックを持っている。 居酒屋にいる

ことが多い。 良く一緒に飲み、食べる。

 

 大学が同じで、双子の兄弟、秋斗春斗との恋愛関係が本作の

メイン・テーマである。

 

 私は秋斗に想いを寄せていたが、卒業式当日、私の告白を拒絶

しておきながら、一方的にキスをされ、私は心に傷を負った。 

ケイタイの記録も消し、記憶を消そうと努力した。

 

 秋斗は見かけは悪ぶっているが、男女を問わず、友達思いで、社交性に

富んでいた。だから、私なんか目に入らなかったのだと思うことにした。

 

 春斗は人見知りのたちで、友達も少なかった。 仕事は教員の免許を

持っているのに、大手の塾の講師をやっている。

 

 学生時代は塔子を入れて、4人で過ごすことが多かったが、秋斗との

ことがあって、卒業から3年間、双子の兄弟とは疎遠になった。

 

 私は知らなかったが、二人とも比較的近くに生活圏を持っていて、

接触が起き始めた。 まず、春斗が学生時代から私を想っていたと告白、

私としては、秋斗を忘れられないが、卒業の時振られたままで、将来の

希望も無いものだから、つい春斗の熱い想いに負けて、男女の関係に。

 

 ここまでの物語りの進行や、登場人物については、この作家特有の

熱っぽい語り口で夢中になって読まされてしまう。

しかし、ここからあとは、読んでのお楽しみにする。