「オクちゃんの読書日誌」第1回

「白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように」

                作:さかき原枝都は      

                 

 「オクちゃんの読書日誌」の初回は、

秋田県横手市在住の作家、さかき原枝都はさん作、

白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように」。

 

 この作品は「エブリスタ」及び「小説家になろう」で公開、

2016年9月完結、150,253文字の長編恋愛小説。

 

 主人公亜崎達也(あざきたつや)が高校時代から小説を書き始め、

大学の文学部を出て、プロの小説家になるまでの物語り。

 

 タイトルの意味は『特定感情消失症』という世界に類を見ない

精神病を抱え、謂わば、人生最高の幸福を味わった、大学3年での

180日間で愛し合った主人公との記憶だけがスッポリ消えた女性の話。

 

 プロローグにプロの作家になっている主人公、亜咲達哉が彼の記憶を

失っている、かつての恋人、今村沙織とすれ違う場面を置いているが、

これは物語の終盤への伏線である。

 

 主人公の亜咲達哉は常磐大学文学部3年のとき、同じ大学の

教育学部3年の今村沙織と「公園」で知り合う。 

彼女は達哉の大学の文芸サークルの仲間以外で初めて彼の作品を

読んでくれた「最初の読者」。

 

 このサークルの部長はすでに2作品で大賞を取った若手作家のホープ

有田優子。 仲間に同期で経済学部の宮村孝之がいる。

 

 達哉は知り合った日の次の日、大学のキャンパスで沙織の姿を探し、

彼女の親友の美津那那月(みつななつき)と知り合う。

彼女は達哉に「ナッキ」と呼んでという。

 

 高校時代、達哉はラノベ小説を書いていた。

 

 同じクラスに、聞くことは出来るが、話すことが出来ない

失語症というのか)冨喜摩美野里(ときまみのり)という

女子生徒がいた。

彼女との会話には筆談が必要だから、友達がいなかった。

そんな美野里は授業が終わると図書館に行った。

達哉も同じ図書館を利用していたから、良く美野里の姿を

見かけていた。

 

 1年くらい過ぎたあるとき、美野里が席におらず、ピンクの

モバイルPCが開けたままになっているのを見つけた。

画面を見ると執筆中の小説を発見。 勝手に読んでいるところに、

美野里が戻ってきて大騒ぎ。

美野里はPCの音声機能を使って「どこかに消えて」と叫ぶ。

 

 その後、美野里は学校にも図書館にも姿を見せない。

達哉はとにかく謝りたい一心で、担任教師に美野里の自宅住所を

訊くが相手にされない。 ところが、養護教諭の町田先生という

20台の美人の先生が、美野里に渡してと封筒を達哉に託す。

 封筒の裏には美野里の住所が書かれていた。

 

 達哉は美野里のマンションを見つけるが、留守のようなので

帰ろうとした。 然し、途中の公園のベンチに座る美野里

見つける。 達哉は必死に謝る。 最後は美野里のほうが折れて、

仲直り。なんと、美野里も達哉の小説用のノートを拾って、

中味を読んだ後、達哉の机に黙って返して置いたから、

「おあいこ」だと云う。

 

 達哉は二人が一緒のところを見つけたクラスの仲間に冷やかされ、

殴り合いになる。 それを見ていた美野里は、またも学校と図書館から

姿を消すが、達哉は公園で美野里を見つけて、美野里の書く小説を

褒め、二人の仲は一層深まる。 そのあと、土砂降りの雨に会い、

二人は美野里のマンションにとびこみ、成り行きで抱き合う。

 

 美野里は達哉に、彼女が崇拝する作家の恋愛小説の新刊を

プレゼントし、達哉にも恋愛小説を書くことを勧める。

 

 美野里は父の転勤に同行、北海道に引っ越し、北海道の大学に

進むと達哉に告げる。 二人の仲は途切れるが、のちに、

美野里は大賞を受賞し、作品が書店に並ぶことになる。

 

 大学3年生の3人、亜崎達也、今村沙織、美津那那月は

大学の学食で落ち合うようになる。

 

 達哉が沙織に逢った公園は達哉の住まいの近くだが、

沙織がその公園にいたのは、父親が事務を執っている、

近くの大学病院に「片頭痛」の治療に行った帰りだった。

 

 沙織が席を外した時、達哉はナッキから沙織への想いを聞く。

二人は高校時代からの友達だが、沙織は美人だが地味で男の

影が無い。 ナッキは色が黒く男性的で、沙織に憧れている。

 

 ある時、達哉の友人、宮村孝之が学食にいた3人のテーブルに

割り込んでくる。 孝之は達哉に沙織を題材にした恋愛小説を

書くことを勧める。 沙織は「私は構いません」という。

 

 夏休み、達哉はカフェレストランでバイトする。

厨房を希望したが、客のアテンド係に配属される。

上司は正社員で、大学を出てから4年のチーフパーサー、

鳥宮恵梨佳 26才。 制服とネクタイ姿に達哉は憧れる。

 

 店が混んだ或る日、恵梨佳が女を連れたチンピラにからまれ、

転倒して怪我をする。 達哉が駆け寄ろうとするのを支配人が

押しとどめ、チンピラを有無を言わせず追い払う。

 

 そのあと、支配人から頼まれ、恵梨佳を病院に連れて行くが、

恵梨佳が達哉を食事に誘う。 彼女は自分より16才位年上で、

バツイチ、娘持ちの支配人と交際していることを達哉に教える。

 

 彼女は達哉に「貴方は自分が思っているより遥かに素晴らしい

男の子だよ」という。

 

 沙織からナッキが一緒に買い物に行くはずが来れなくなった。

一人ではいやなので、つき合ってくれと云われ、達哉はOKする。

二人だけで逢うのは初めてだった。

 

 沙織が買い物で貰った映画の優待券で二人は映画を観る。

その映画の原作は達哉の高校時代のガールフレンド、

冨喜摩美野里が崇拝する作家の恋愛小説だった。

ヒロインが大切な思い出を失う話で、二人は涙が止まらない。

 

 帰りに達哉のバイト先のカフェレストランで食事して、

達哉のアパートに寄る。

 

 沙織は中学時代、女子生徒たちからイジメを受けていた。

ナッキはアーチェリーの選手だったが、校舎裏のイジメの

現場にとんできて、沙織を助け出し、その後保護者となる。

 

 高校時代のナッキは男っぽいが男子生徒にモテており、

沙織は羨ましくて、アーチェリー部員の男子と付き合ったことが

あったと達哉に告白する。

達哉も冨喜摩美野里との一部始終を告白する。

 

 達哉が沙織に「好きだ」と告白。 

沙織も「そう言ってくれるのを待っていた」と返事。

 

 沙織は家に「ナッキのマンションに泊まる」と連絡、達哉の

アパートに泊まり、結ばれる。 知り合って未だ1ヶ月だった。

 

 達哉の友人、宮村孝之には高校時代からの彼女、佐崎愛奈がいた。

愛奈は精神不安定で問題が多かったが、孝之は見捨てなかった。

 

 沙織は達哉に「お互いにとって大切なものを失っても、

また取り戻せるような小説を書き続けて」と云う。

「白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように」ね。

「もしも、私が貴方のことを見失っても、また、貴方の前に

姿を見せられるように・・・おねがいね。」と。

 

 沙織は二人の仲が母親にバレたと達哉に報告する。

 

 大学3年の夏休み。達哉はバイト先の上司の鳥宮恵梨佳に頼まれ、

8月1~3日の3日間、親会社が新規に出店した、有名ビーチの

カフェテラスの応援に行くことになる。

 

 2日目に沙織、ナッキ、宮村、愛奈がレンタカーで現れ、

別の車で支配人と恵梨佳も現れる。

 

 沙織とナッキは無報酬で店を手伝う代わりに、会社が予約した

ホテルに無料で宿泊させて貰う。

 

 最終日の慰労会で、恵梨佳がその日は達哉と沙織の誕生日

であることを発表する。

 

 達哉の小説は「二人の沙織」が登場する物語。 

空にいる沙織が地上の沙織を見ているという話。

沙織の中学生時代からの恋愛物語。

 

 達哉は姉からの電話で、帰郷しないのは何故だと問い詰められ、

彼女が出来たことを白状させられる。 姉は達哉に出来るだけ

早く本人を連れて来て、母親を安心させてと云う。

 

 宮村の彼女、愛奈が妊娠2ヶ月と判り、10月に形だけの

結婚式を挙げることになる。

 

 達哉は沙織の両親・弟の佑太と会う。 

父親は沙織が通院している大学病院の事務職。 

然し、大学では文学部で、小説家を目指したが、崇拝する作家の

言葉で断念したことが分かり、達哉と話が合う。

 

 秋、文芸部の部長有田優子に呼ばれる。 

彼女は大賞を取っており、プロの作家である。

達哉の書いている小説は未だ途中だが126,800文字。

達哉は大賞に応募する予定。

 

 有田優子の批評は「素人の趣味としては良く書けているが、

綺麗すぎる。 大賞に応募しても選考止まり。」

 

 「人間の嘘や騙し合い,妬みや嫉妬、欲望、苦しみ、悲しみ、

など、人間の汚さを書いて、読者の心を揺らすのが小説」だと。

 

  達哉のスマホに有田優子から「助けて」と電話が飛び込んでくる。

マンションに駆けつけると、彼女は高熱で床に倒れていた。

往診してくれる医者を探して来て貰うと、「肺炎になるところ

でしたよ」と云われる。 達哉は甲斐甲斐しく看病し、優子は回復。

優子は達哉の役に立つと、榊絵都菜という作家の本をプレゼントする。

 

 榊絵都菜は幼い有田優子を残して家を出て、プロの作家として成功、

北海道に住んでいる優子の実母。

 

 達哉の高校時代の恋人、冨喜摩美野里が北海道に行ったのも、

榊絵都菜に北海道にある某大学に入学出来たら、弟子にすると

云われたからだと分かる。

 

 有田優子がくれた榊絵都菜の小説のストーリーは27才のOLが

失恋、人生に希望が湧かず、淋しい時、悲しい時、苦しい時に応じ、

様々な恋物語を創作して気を紛らす。 物語の中で人間の汚さ、

醜さを書き尽くしていた。

 

 ところが、実は、この物語は余命少ない高校生の少女が病床で、

病に苦しみ、運命を呪いながら、書き続けていたが、命が絶えた

ところで物語が終わるという悲しい結末。

 

 10月初め、宮村孝之と佐崎愛奈の結婚式が小さな教会で、

達哉、沙織、ナッキ、孝之・愛奈の身内だけで挙げられる。

 

 達哉は小説の設定を変え、空にいる沙織を青華、地上の沙織を

水菜と名付けた。 二人は水菜の夢の中で逢うという設定だが、

青華が水菜と暮らしたいという気持が強まり、青華を空登(くうと)

という男の子に憑依させる。 空登は自分と青華の両方の記憶を

持つ。 最後、青華の存在は消滅し、空登の中の青華、水菜の

記憶も消える,という切ない恋愛物語。

 

 沙織は「一番大切な記憶を失う」『特定感情消失症』という

病気が、いずれは発症することを知っており、それは今のままだと

達哉との記憶を失うということであり、それを避けるために

達哉との別れを決断する。

 

 然し、沙織の弟の佑太が達哉に姉を苦しめていると抗議する。

達哉は二人の大切な記憶を失うことになっても、その時が来るまでは

関係を続けようと沙織を説得する。

 

 達哉と沙織の関係は新しいステージに入った。

二人は沙織が抱えている病気への怖れは棚上げにして、

毎日精一杯愛し合った。

 

 沙織は有田優子に沙織の病気が発症したら、達哉を宜しくと

頼み、優子はOKする。

 

 達哉は次の小説に取り掛かる。 沙織の頼みを叶えるため。

その小説が沙織の目に触れたら、達哉と巡り合えるように、

「白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように」。

 

 達哉は沙織と二人で書いた初めての小説を恋愛小説大賞に

応募、最優秀賞に選ばれる。 

授賞式の日、沙織が入院するが、この時は無事に回復。

達哉は沙織にプロポーズする。

 

 沙織は達哉のことが判らなくなる。 達哉だけが。

 

 3年後、有田優子は海と山に挟まれた小さな町に引っ越す。

達哉も同行し、弟子という形で同棲する。

 

 冨喜摩美野里が文学大賞を受賞する。 

タイトルは「私に声をくれた人」。

 

 達哉はナッキのマンションに呼ばれ、ナッキは達哉を

昔から好きだったと告白し、二人は愛を交わす。

 

 美野里発声障害を治療してくれた若い外科医と結婚する。

祝辞を述べる達哉に、美野里が肉声で「達哉、ありがとう」と

云って、新郎や来客の前にも拘わらず、二人は抱き合う。

 

 達哉は沙織を主人公にした小説を次々と書き続け、沙織は

達哉の小説を全部購入。 沙織は夢の中の達哉に恋し続ける。

 

 達哉は10巻目まで来たが、終わりが書けない。

 

 二人は病院のそばの公園に足が向く。

達哉が「沙織」と呼ぶ。 沙織も「達哉」と呼ぶ。

しっかりと抱き合った二人とも涙があふれて止まらない。

 

                    完 

 

是非、原作を

https://estar.jp/_novel_view?w=24810038

https://ncode.syosetu.com/n0233dn/

で御覧ください。