オクちゃんの読書日誌 第3回

「君と、あなたと出会えたのは、

あの夜空に輝く花火があったから」

               作:さかき原枝都は

 

 本作は2017年9月から「小説家になろう」と「カクヨム」に

連載された165,527文字の長編恋愛小説。

 

 本作品では2011年3月11日(金)の「東北大震災」と毎年8月の

第4土曜日に行われる秋田県大仙市大曲の「全国花火競技大会」が

重要な事件として再三触れられる。

 

 「東北大震災」は説明の必要は無いが、大曲花火大会は知らない人も

いるだろうから、宣伝を兼ねて、特徴を記しておく。

 

 まず、全国三大花火大会というのは :

                       観客数

    秋田県大仙市 1万8千発 1夜のみ 約80万人

    茨城県土浦市 2万発   1夜のみ  80万人

    新潟県長岡市 2万発   2夜   100万人

 

 大会優勝者に内閣総理大臣賞が与えられるのは、当大会と土浦大会のみ。

 昼花火が行われるのは全国でも当大会のみ。 

 

 

                                蒔野巳美(まきのともみ) 

 

 私、蒔野巳美は6年前、2012年の夏、秋田県大仙市大曲の

全国花火競技大会」で夜空に輝く大輪の花火を見た。

 

 この日は私にとって特別な日。

この日があったから、私は一歩前に踏み出すことが出来た。

 

 私は高校2年の春、宮城県で「東日本大震災」に遭い、

母親と大事な人を失い、秋田県大仙市の親戚に引き取られた。

 

 叔父・叔母に花火見物に誘われたが、そんな気になれず、

町の中を彷徨い、川の土手に辿り着く。 

 

 そこに居た若い男性に声を掛けられて隣に座る。

彼は泣きじゃくる私の手を、やさしく握り、暖かみが

伝わってくる。

 

 雪が積もる冬になり、私のPTSDの症状はどうしようもない程

重くなり、大学病院の精神科に入院する。

 

 そこで、花火の時手を握ってくれた人、精神科の助手で医師、

杉村将哉(すぎむらまさや)と再会する。

 

           杉村将哉(すぎむらまさや)

 

 僕には高2からつきあい始めた辻岡歩実香(つじおかふみか)

がいた。 彼女は僕が大学5年のとき、秋田に移った。

彼女は東京で看護師をするつもりだったが、両親が秋田に引っ越し、

父親が脳梗塞で死亡、母親が一人残されたので、母親と一緒に暮らす

ことにする。

 

 東京と秋田の間で辛い遠恋が始まった。

 

 僕と歩実香のなれそめ。 

僕は大学の医学部を受験するので、バスケ部を2年でやめた。 

1年先輩でバスケ部のマネージャーだった歩実香から

ラブレターを貰ったが、僕は返事を出さなかった。

彼女がバスケのキャプテンと付き合っていたのを知っていたから。

然し、当のキャプテンから歩実香は僕が1年の時から僕を想って

いたから別れたとのだと教えられる。

 

             蒔野朋美

 

 PTSDで気を失い入院した私が気がついたとき、私の手は

杉村先生の手に握られていた。 その暖かさで花火の時の

記憶が戻る。

 

 私は東京の中学を卒業して、高校に入学した1年後、

両親が離婚、宮城の海岸の町の高校に転校した。

父が謝罪の手紙と現金3万円を送ってきた。 

その金の使い道に困り、東京の石神井の父に会いに行った。 

然し、新しい家族と幸せそうな父を見て、会わずに帰ってきた。

 

 唯一の親友は冨塚和美(とみずかかずみ)。 和美も母子家庭。

 

 酒屋の息子の大島和也(おおしまかずや)は同級生だが

人見知りで、学校も良く休むし、人付き合いも悪い。 

自転車で配達途中、巳美が防波堤にいるところによく

姿を見せた。 和也は巳美が自殺するのではないかと

心配だったという。 そして、二人はキスする仲になった。

 

 巳美は和也と和美が手をつないで歩いているところを見つけ、

二人の仲を疑い、絶交を宣言。 ところが、それは、和也が

巳美の誕生日(9月1日)プレゼントを選ぶのを和美に

手伝って貰ったことが判る。

 

 和美は和也との仲を巳美に説明する。 二人は小学からずっと

一緒だった。 中学の時、和美の両親が離婚し、和美が学校で

イジメにあった。 和也は全校生徒・教師の前でイジメを

やめるようにと訴えた。 それで二人の仲は急接近した。

そして和美は妊娠・中絶。 和也は他校に転校させられる。

 

 和美は巳美の家に泊まり、和美は巳美にキスする。

 

 三人で夏祭りに行き、花火を見て、屋台に寄る。

和也が巳美にくれた誕生日プレゼントは花火と同じ、

赤、青、緑、金色、4色のサファイアを散りばめたペンダント。

 

 蒔野巳美は未成年の18才。 3月には退院するが、親戚は

引き取りを拒否する。 

 

 将哉は上司の準教授から巳美を亡き辻岡歩実香の母親に預ける

ことを勧められる。

 

 蒔野巳美は辻岡歩実香にそっくりだった。

 

          辻岡歩実香

 

 杉村将哉は歩実香が風邪をこじらせ入院したとき、卒業式を

欠席して病院へ行き、歩実香に「好きだ」と告白。

 

 歩実香が東京の将哉に8月の第4土曜日の大曲の花火を

見に来ないかと誘う。

 

 将哉は秋田空港に飛び、歩実香が車で出迎える。

花火会場に車で行き、歩実香の同僚の奥村秋穂(おくむらあきほ)

家の庭に駐車させてもらう。 花火会場は混雑しており、歩き回って

奥村家の近くの土手から花火を見た。

 

             蒔野巳美

 

 将哉は巳美に、彼女を預けようと考えている、

亡き辻岡歩実香の母親の説明をする。 

 

 他方、歩実香の母親に巳美の説明をする。 

母親は既に准教授から話を聞いていた。 

彼女は将哉に、病院へ行って、巳美を離れた所から見た上で

決めると答える。 

 

            辻岡歩実香

 

 花火を見た翌日、歩実香は新幹線で東京にもどる将哉を見送る。

 

 冬が過ぎ、将哉は医師国家試験に合格。 研修医として病院勤務を

始め、次の夏の花火は見に行く余裕は無い。

 

 歩実香の母親が子宮筋腫で入院したが、歩実香は将哉には

要らぬ気を使わせまいとして知らせない。 

 

             蒔野巳美

 

 夢の中で「巳美」「巳美」と呼ばれるが、誰の声か判らない。

病室を出て、歩きながら夢を見ていて気を失う。 

そこを歩実香の母親が見掛けて助ける。

 

 巳美のPTSDの症状が重くなり、自殺願望を抱いて海に向かい、

失神する。

 

            辻岡歩実香

 

 男の子が信号を無視して、歩実香の車と接触する。

 

 歩実香は将哉との辛い遠恋に疲れ、神経を患い、

心療内科医師、真壁信二(まかべしんじ)の治療を受ける

 

 真壁医師との食事のあと、将哉にプレゼントするコートを買う。

帰宅途中、車に連れ込まれ暴行される。 

 

            杉村将哉 

 

 外科の研修の指導医は女医の笹山医師。 

笹山医師は歩実香が東京の病院にいたときのことを知っていた。

将哉は歩実香に伝えるが、二人の間のやり取りは更に減る。

 

 田島尚(たじまなお) 12才 サッカー少年が練習中に倒れ、

搬送されて来る。 左心室の心筋不全、特発性拡張型心筋症で

心臓移植しか助かる方法は無い。

入院2年後失命、将哉は無力感を味わう。

 

 雨の中、海岸に向かった巳美を防波堤で見つける。 

巳美は将哉の腕の中で意識を失った。

 

             蒔野巳美

 

 和也と和美と3人で行った夏祭りのあと、巳美は和也と結ばれた。

 

 翌年、2011年3月11日、「東日本大震災」の日。

津波が襲って来て、和也が「巳美は生きろ」と云って波間に消える。

母の遺体も見つかる。

 

 意識が戻った時、歩実香の母親が看病してくれていた。

 

 将哉もいた。 

 

 歩実香の母は巳美の引き取りを一旦断ったが、それは

将哉に対するこだわりからだった。 然し、歩実香にそっくりの

巳美を見てから、巳美を世話したくなった。

 

 巳美と将哉は日の光が射しかける暖かい梯子を登り始める。

 

            辻村歩実香

 

 真壁医師から告白される。 

 

 歩実香は職場に復帰する。

 

 歩実香は東京の将哉にコートを届け、自分の心を確かめようとする。

 

             杉村将哉

 

 笹山医師の厳しい指導が続く。

「医者である前に一人の人間であれ」という言葉は

今後の人生の苦しみを乗り越えさせてくれそう。

 

            辻村歩実香

 

 予告なしに将哉を前の職場であった病院に訪ねる。

笹山医師が歩実香を見かけ、将哉を早退させる。

歩実香はプレゼントのコートを将哉に渡す。

暴漢に汚されたコートは店が好意で新品と取り換えてくれていた。

二人は馴染みの店でオムレツを食べ、将哉が通っていた塾を

見に行く。

歩実香は将哉への気持を確認し、真壁医師への気持は消える。

 

            杉村将哉

 

 歩実香の態度に違和感を覚えるが、歩実香は何も話してくれない。

歩実香は東京に一泊もせずに秋田新幹線で秋田に帰っていく。

 

            辻村歩実香 

 

 結局、将哉には何も言わず、用意した手紙も渡さなかった。

 

 真壁医師から婚約指輪を渡されそうになるが、歩実香はきっぱり

断る。

 

 歩実香は横断歩道を渡る少女を助けようとして、車にはねられ、

命を落とす。

 

              杉村将哉

 

 秋田の歩実香の同僚奥村秋穂から歩実香の死を伝える電話を受ける。

笹山医師から、羽田から飛行機で行けと云われる。

 

 母親から歩実香の手紙を受け取る。

 

 真壁医師から歩実香に断わられた指輪を受け取るよう頼まれる。

 

 研修は、外科から内科、精神科へと進む。

 

 将哉は毎月歩実香の命日に日帰りで墓参をする。

 

 2011年3月11日(金)「東北大震災」が起きる。

笹山医師と二人だけで宮城へ派遣医師として赴く。

 

 笹山医師は北部医科大学の高度救命センターへ移る。

 

 将哉は笹山医師から外科には向いていないと云われる。

笹山医師の彼は外科医師だったが、屋上から飛び降り自殺した。

 

 将哉は秋田の大学の精神科を志願し、研修医として受け入れられる。

 

 大曲の花火の夜、巳美と出会う。

 

             蒔野巳美

 

 2週間ごとに通院、将哉と会う。

 

 5月の連休を過ぎ、将哉が同行して、宮城の海の防波堤へ行く。

巳美は宮城の海に自分の弱い心を捨てたかった。

将哉に「好き」と告白する。 医者になると海に誓う。

 

 巳美は高卒認定試験を受け、大学の医学部への入学を果たす。

 

 養子縁組で辻岡巳美となる。

 

 冨塚和美は生きていて、看護師になっていた。

 

 将哉はアメリカに3年間の研修に行く。

 

 巳美は歩実香が貰うはずだった指輪を左の薬指にはめ、

指輪に絡んだ人達の想いを感じる。

 

 秋田県大仙市大曲の「全国花火競技大会」がきた。

巳美が見る場所は特別な場所。 

私と私の大切な人との秘密の場所。

 

 花火が打ち上る。 近づく足音。

「その席、まだ空いているかな?」

 

 左手の薬指の指輪を右手の薬指に移し、新しい指輪を

左手の薬指にはめてくれる。

 

「結婚しよう」。

 

君と、あなたと出会えたのは、あの夜空に輝く花火があったから。

 

               

 

原作は下記URLでご覧ください:

https://ncode.syosetu.com/n0181eg

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884049110