オクちゃんの読書日誌 第5回
「粉雪舞う季節に宿る初恋の想い」
作: さかき原枝都は
2017-10-04 カクヨム 18,255文字
https://kakuyomu.jp/works/1177354054882128158
本作品は秋田県横手市の伝統行事「横手のかまくら」から生まれた。
秋田の伝統行事で有名なのは東北三大祭りのひとつ「竿灯祭り」:
それと、国内三大花火大会のひとつ「大曲全国花火競技大会」:
そして、ユニークな雪国のメルヘン「横手のかまくら」:
「かまくら」とは神の宿る雪室(ゆきむろ)のこと。
毎年2月15~16日の夜行われる。
横手市内に約100個作られる。
中から地元の子供たちが外を通る人達に声を掛ける。
「はいってたんせ(入って下さい)」
「おがんでたんせ(拝んでください)」
中に入って、水神様にお賽銭をあげて、幸運を祈ると、
子供達が甘酒(あまえこ)と餅、菓子をくれる。
ここで、”話っこ”に花が咲き、恋が芽生えたお話。
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「粉雪舞う季節に宿る初恋の想い」
「かまくら」から放たれる淡いオレンジ色の光が、薄暗くなった
空と白い雪とのコントラストを一層幻想的に輝かさせる。
僕、真壁友哉(まかべともや)は小学生のとき、父親の転勤で
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「かまくら」から同じクラスの女の子が、朱色の「どんぶく」
を着た姿で、僕の名を呼んだ。
彼女の名は佐々木奈々枝(ささきななえ)。
目鼻立ちの整った美人顔で、明るく、気さくな性格。
「かまくら」の中は暖かった。
水神様にお賽銭をあげ、両手を合わせる。
彼女が優しく微笑み、甘酒を振る舞ってくれた。
僕は胸がいっぱいになった。
彼女は住まいが近く、仲良くしてくれた。
小学校卒業の直前、父の転勤で東京に戻った。
中学に入った頃、彼女から手紙がきた。
アルトサックスを抱えた写真が同封されていた。
僕は書くことがなく、簡単な返事だけ書いた。
高校1年のクリスマス近くに、街中のイルミネーションの
中に大きな二つのドーム型の雪の塊を見つけた。
僕には、すぐに、それが「かまくら」だと分かった。
彼女への想いがふくらみ、横手の「かまくら」を見に行きたくなった。
直ぐ、旅費のためにバイトを始めたが、2月の15~16日は
インフルエンザで高熱のため、秋田には行けなかった。
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私は高校生になり、男の子から何度も誘いを受けたが、
その気になれず断り続けた。
毎年、「かまくら」の季節がくると、真壁友哉との思い出が甦る。
友達の朋美や昭から「待ち人は来ないのか」と冷やかされる。
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僕は、結局、高校の3年間、横手の「かまくら」に行けなかった。
ある秋田のイベントのポスターに佐々木奈々枝の美しく成人した姿を
見つけた。
高3の夏、彼女から手紙が来た。
携帯の番号と、そのあとに「友哉の声が聞きたい」とあった。
僕はバイトして横手に行こうとしたこと、大学は国立の
秋田大学を受けると返事。
彼女からは「待っている奈々枝のためにがんばれ」との返事。
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私は父親や朋美,昭に手伝って貰い、家の前に「かまくら」を
作り、中で友哉を待つ。
足音が近付き「はいってたんせ おがんでたんせ」と声を掛ける。
遂に、初恋の想いがかない、二人とも涙が止まらない。
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ラストシーンは二人が3才の娘、愛奈を連れて横手の「かまくら」を
訪れて終わる。
完